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大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)194号 判決 1974年10月31日

原告(反訴被告)

上田正株式会社

右代表者

上田正信

右訴訟代理人

藤原光一

池尾隆良

被告(反訴原告)

進興繊維工業株式会社

右代表者

野山清太郎

右訴訟代理人

東野俊夫

主文

一、本件手形判決を認可する。

二、被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し次の金員を支払え。

金二六一、八五六円とこれに対する昭和四八年一一月三〇日から完済まで年六分の割合による金員。

金二二五、四二〇円とこれに対する昭和四九年一月二四日から完済まで年六分の割合による金員。

三、被告(反訴原告)の請求を棄却する。

四、異議申立後の訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とする。

事実《省略》

理由

第一請求の原因事実

原告主張の請求原因事実は全部当事者間に争いがない。

第二相殺の抗弁及び反訴の請求原因の検討

被告主張の抗弁・反訴の請求原因事実1は当事者間に争いがなく、この事実と<証拠>によると、(一)原、被告はいずれも商人であるが、被告は原告から昭和四八年四月六日に二五ミリスベリ止メゴム紐色混一〇反(単価二〇〇円、金額二、〇〇〇円)(乙第五号証の六)、同月一四日に同ゴム紐二九九反(単価二〇〇円、金額五九、八〇〇円)(乙第五号証の七)を水泳パンツ(メリヤス製品)に使用する目的を明示して買受けた。(二)被告は右ゴム紐を使用して水泳パンツを縫製して完成し東京都台東区所在のキャピタル工業株式会社へ販売したが、右水泳パンツは紺一色のものと、紺色に白線入りのものの二種類になつている。(三)同年八月四日午後キャピタル工業株式会社から被告会社に電話で、前記水泳パンツが色落ちし、白線部分を汚染する不良品が続出している旨のクレームがあつた。(四)その翌日被告会社代表取締役野山清太郎が東京の右キャピタル工業株式会社へ出張し色落ちがあつた現品を詳さに見分したところ、紺一色のパンツは色汚染が目立たないので何とか我慢して貰うこととしたが、白線入りの分は紅色汚染が際立つて致方ないので右キャピタルの要求に応じ新製品と交換することとし、急拠縫製に着手し同月二五日に白ライン入スクールパンツ八号一、〇六四枚(単価四三〇円、金額四五七、五二〇円)、同一〇号一、一二〇枚(単価四五〇円、金額五〇四、〇〇〇円)(以上乙第二号証の一、二)、同月二七日に同パンツ一二号一、一六四枚(単価四七〇円、金額五四七、〇八〇円)、同S一、二七二枚(単価四九〇円、金額六二三、二八〇円)(以上乙第三号証の一、二)を右キャピタル工業へ無料で交換のため送付した。(四)被告会社代表取締役野山清太郎はこの色落クレームの交渉のため四度東京に出張し、被告会社は一三八、一三二円の交通費等を支払つた。(五)右色落ち汚染は原告が被告に売却した前記色混ゴム紐の染色堅牢度不十分によるもので、被告はこれより前記のとおり無料交換したパンツ代金二、一三一、八八〇円と交通費等一三八、一三二円の合計二、二七〇、〇一二円の損害を蒙つたことが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

そして、被告がその主張のように右の損害に対する賠償請求権を反対債権として相殺の意思表示をしたことは当裁判所の職務上顕著な事実である。

第三見本売買、特価品の再抗弁(反訴の抗弁)の検討

<証拠>を総合すると、(一)被告会社は水泳パンツ製造の専門メーカーであるが、服飾付属品の卸売業者である原告会社から昭和四三年一〇月以来水泳パンツに使用するゴム紐、釦、クロス文字など服飾付属品を継続して購入していた。(二)そのうち、水泳パンツに使用するゴム紐としては変りブラジヤーゴム紐(白色巾二五ミリ)を買入れていたが、その価格は昭和四七年一二月〜同四八年二月頃までは単価(一反)三六〇〜三八〇円であつたが、同年二月頃からは変りブラジヤーゴムが極度の品不足になり、価格も高騰してきたので、原告会社は同年二月二六日納入の納品書に「次回より単価値上りします」と付記した。その後被告会社から同年三月に入り前後五、六回に亘り発注を受けたが同ゴム紐を納品できなかつた。(三)同年四月初頃原告会社繊維事業部内地課の課長杉本和彦が得意先である株式会社ヤマト屋から整理のため色混みのゴム紐の在庫処分を依頼されたので、これを被告会社へ売却することを考え、部下の林道治に見本を持つて被告会社へ行かせた。(四)その際、原告会社の販売担当者である右林は杉本の指示で二五ミリ巾に切断されたゴム紐を見本として持参し被告会社の担当者金沢福一に対し、この商品は色混みで数量の限られた特価品である旨述べて見本を預けたが、その際林としてもゴム紐が色落ちするとは考えてもいなかつたので、色落ちの可能性については何ら注意することはなかつた。(四)見本は被告会社の担当者金沢福一が受取り、これにより買入の発注をした。これに応じ原告会社から昭和四八年四月六日に一〇反、同月一四日に二二九反の色混みゴム紐を前記第二(一)のとおり被告会社に単価二〇〇円で納品されたが、右金沢や被告会社代表取締役野山清太郎は色落ちの危険については全然念頭になく、ゴムの伸縮や縦の強度を調査したのみで色落ち検査はしないで縫製工場へ回送した。(五)同年五月八日、二四日に各納入された変りブラジャーゴムの単価は五八〇円であつたことが認められ、この認定に反する証人金沢福一の証言部分は前記各証拠に照らし遽かに措信できないし、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

そして、これらの各事実を併せ考えると本件ゴム紐の売買はいわゆる見本売買であり、しかも市価の半額以下である特価品であつたことが推認できるが、特価品として一切の瑕疵につき原告会社が責任を負担しない旨の特約が原、被告間になされたとの原告主張の再抗弁事実(反訴の抗弁事実)はその主張に副う証人金沢福一の証言部分は前証拠に照らし遽かに措信できないし、他にこれを認めるに足る証拠はないし、特価品であることが自動的に売主の瑕疵担保の免責に連なるものとはいえないのであつて、この免責を認める旨の商慣習が存在するとの主張、立証もない。

次に、見本売買は売主が見本によつて売買の目的物の性質、性能を確保し、売主はその給付した目的物が見本に適合しないときには瑕疵担保責任を負うものであるが(大判大一五・五・二四民集五巻七号四三三頁、大判昭三・一二・一二民集七巻一〇七一頁参照)、特段の事情がない限り、目的物が見本に適合するとの一事をもつて売主の瑕疵担保責任を免責する趣旨をも帯有するものとはいえないと考える。けだし、見本自体にどのような瑕疵があつてもすべて売主の免責を認めるというのは、当事者間にその旨の特約が存するなどの特段の事情がない限り、著しく公平を失し徒らに買主に苛酷を強いることになるからである。

したがつて、右の特約の存在等の特段の事情の主張立証がない本件においては見本売買による免責を主張する原告の再抗弁(反訴の抗弁)は採用できない。

第四瑕疵通知義務の懈怠の再抗弁(反訴の抗弁)、再々抗弁(反訴の再抗弁)の検討

原、被告がいずれも商人であること、本件ゴム紐が原告会社から被告会社へ届けられたのは、うち一〇反が昭和四八年四月六日であり、二九九反が同月一四日であること、原告に対する色落ち瑕疵の通知が同年八月四日になされたことはすべて当事者間に争いがなく、見本の手交は右四月六日の直前であつたことは前認定第三(三)(四)(五)のとおりである。

そして、<証拠>を総合すると、(一)従来から水泳パンツ用のゴム紐は主として白色を用い色落ちを避けていたこと、(二)本件の色落ちの瑕疵はキャピタル工業株式会社から被告に通知されて初めて気付いたものであるが、事の性質上ゴム紐を水洗する等して容易に発見できるものであつた。(三)本件ゴム紐は前認定のとおり特価品でしかも色混みの見本売買であり、白色と異なつて色落ちの危険性が予測できるのであるから、従来の白色ゴム紐とは異なり色落ち検査を不要とする性能保証の商慣習があつたとはいえないことが認められ、他にこの認定を覆すに足る証拠はない。

右認定の事実に照らすと、本件ゴム紐の色落ち瑕疵は被告会社において直ちに発見し得る瑕疵であるというべきであつて、直ちに発見できないものであるとの被告主張の再々抗弁事実が認められないことが明らかであり、他にこれを認めるに足る証拠はない。すなわち、商法五二六条一項段後の「直チニ発見スルコト能ハサル」瑕疵とは、専門的知識を有する買主たる商人の通常の注意をもつて、取引の態様、過程に照らし合理的な方法及び程度の検査をなしても発見できない瑕疵をいうのであるが、本件ゴム紐の売買では前認定のとおり市価の半額以下の数量に限りのある特価品で、従来の白色のゴム紐と異つた色混みのゴム紐であるから少しでも注意を払えば当然色落ちの危惧を抱くに至る筈のものであり、しかも被告は見本を受取つているのであるから、その時ないし現品受領以後速かに色落ちの有無を検査する義務がありその検査も水浸しや水洗などの簡単な方法により発見できる性質のものである。

そうすると、本件売買の経過、本件ゴム紐の使用目的に照らし、本件色落ち瑕疵は専門的知識を有する商人として買主たる被告会社が直ちに発見できる瑕疵であるといわねばならない。

次に、前認定(三)の事実に照らすと市価半額以下の特価品である本件ゴム紐の売買についても被告には寸法・伸縮の度合の検査以外の見落ち等の検査はしないでよいという性能保証の商慣習があつたとの被告の再々抗弁(反訴の再抗弁)が認められないことが明らかであり、他にこれを認めるに足る証拠はない。

したがつて、被告会社は見本ないしゴム紐の現品受領後直ちに瑕疵を原告に通知せず、受領後三ケ月余を経た昭和四八年八月四日に瑕疵の通知をしたに過ぎないから、商法五二六条一項により右瑕疵による損害賠償を請求することができない。

第五結論

以上のとおりであるから、被告は原告に対し、為替手形金及び各満期の日から完済までの手形法所定年六分の割合の利息金、ならびに売掛代金及びこれに対する訴の追加的変更の準備書面(第二回)送達の翌日から完済までの商法所定年六分の割合による遅延損害金として主文第二項及び本件手形判決第一項記載の金員の支払義務があり、被告の反訴請求が理由がないことが明らかであるから、被告に対し前記金員の支払を求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容すべきところ、そのうち、本件手形(1)(2)については民事訴訟法四五七条一項によりこれと符合する本件手形判決を認可し、被告の反訴請求は失当としてこれを棄却することとし、仮執行の宣言につき、同法一九六条、訴訟費用の負担につき同法四五八条一項、八九条を適用して主文のとおり判決する。 (吉川義春)

為替手形目録<省略>

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